美容室を開業しようと考える際、特に一人で経営していく場合は、創業計画書の作成が成功への第一歩となります。計画書は、金融機関からの融資を受ける際の重要な判断材料となり、事業の方向性や強みをしっかりと伝えるための手段です。
日本政策金融公庫の創業融資を利用する方も多いですが、計画書をしっかりと準備しておくことで審査が通りやすくなります。本記事では、一人美容室向けの創業計画書の書き方について、具体的な例を含めて詳細に解説いたします。
創業計画書とは?目的と役割
創業計画書は、新たなビジネスを始める際に、そのビジネスの方向性、運営計画、経営戦略、収益見通しなどをまとめたものです。特に美容室のように、サービス業での起業においては、ターゲットとなる顧客層や提供するサービスの特徴を具体的に記載しなくてはなりません。計画書は次のような目的に役立ちます。
融資のための審査資料
融資申請時、創業計画書は審査担当者が事業の将来性や信頼性を判断する材料となります。
事業の戦略的な計画
自らの創業計画を明確化することで、目標や実行手順が明確になり、開業後もブレない運営が可能になります。
経営の方向性を伝えるツール
一人美容室のコンセプトやターゲット顧客層など、外部に事業内容をアピールする資料としても活用できます。
創業計画書のテンプレートと利用方法
日本政策金融公庫の公式ウェブサイトには「創業計画書」のテンプレートが公開されており、融資申請時に役立つフォーマットが整っています。このテンプレートには、開業の動機、提供するサービス内容、収支見通しなどの項目が含まれており、融資の審査に必要な情報が簡潔に記入できるようになっています。
また、資金調達支援サービスを行う会社もあり、創業融資を受けられるかの無料診断サービスも提供しています。必要な資金を調達できるかどうかを事前に確認することができるため、融資申請のハードルが下がります。
創業計画書の項目ごとの書き方と具体例
次に、日本政策金融公庫の創業計画書に含まれる各項目について、具体的な記入例や記載のポイントを紹介します。
創業の動機
内容
この項目では、一人美容室の開業を決意した理由や経営のビジョン、事業にかける意気込みを記載します。特に一人美容室の場合、独自の強みや地域での需要を明確にすることが重要です。
記入例
「美容師として15年以上の経験を重ね、技術力を磨いてきました。地元の顧客に対して心のこもったサービスを提供し、自分の理想としている美容室を開業したいと考えています。現在の職場で多くのリピーター顧客が付いたことも自信となり、独立の決意を固めました。」
ポイント
- 開業動機にはこれまでの経歴や背景を踏まえ、明確な理由を述べましょう。
- 顧客層やターゲット地域についても触れると、具体性が増します。
- 開業に至るまでの経緯を示し、計画がしっかりと準備されていることをアピールします。
経営者の略歴や実績
内容
これまでの職歴や資格、スキルを具体的に記入する項目です。美容業界での実績や取得した美容師免許、コンテスト受賞歴などを記載することで、事業に対する信頼感が増します。
記入例
年月 | 内容 |
20XX年 X月 | 美容専門学校 卒業・美容師免許取得 |
20XX年 X月 | 美容室〇〇に勤務(カット専門、3年) |
20XX年 X月 | 美容師コンテスト入賞 |
20XX年 X月 | 美容室×× 副店長として2年間勤務 |
20XX年 X月 | 美容室△△で店長を10年間務める |
ポイント
- 経歴を整理し、特に強みとなる経験やスキルを重点的に記載します。
- 美容師としての技術力だけでなく、管理者としての経験や人材育成の実績があれば、それも記載して信頼性を高めましょう。
取り扱う商品・サービス
内容
提供するサービス内容や店舗のコンセプトを明確にします。どのようなターゲット層を想定しているか、どのような商品やサービスを提供するかを示すことで、ビジネスの差別化を図りましょう。
記入例
「カット、カラー、パーマをメインに、独自に開発したオリジナルのヘアケア商品を提供します。ターゲットは、ヘアケアに関心の高い30代から50代の女性で、天然素材を使った髪に優しい施術を特徴としています。」
ポイント
- 一人美容室ならではの個別対応や、他店にない特徴を明確に記載することで差別化を図ります。
- 特定のサービスに特化している場合、その技術の特徴やメリットを強調します。
主な取引先・取引関係
内容
安定した経営基盤を示すため、仕入先や取引先などの具体的な情報を記載します。特に一人美容室の場合、主要な仕入れ先や固定客数をアピールすることが大切です。
記入例
取引先名 | 所在地 | 取引内容 |
株式会社〇〇 | ○○県△△市 | シャンプー・商品仕入れ |
一般個人 | – | 顧客(リピーター) |
ポイント
- 固定の顧客数やリピーターがある場合は、その人数を具体的に記載します。
- 仕入れ先の選定理由や安定した関係性を示すことで、事業が順調に運営できる見込みをアピールします。
従業員数と雇用形態
内容
従業員数を記載する項目です。一人美容室である場合は、その旨を明確に示し、顧客一人ひとりに丁寧な対応をすることを強調するとよいでしょう。
記入例
「一人美容室として営業し、顧客一人ひとりにきめ細やかな対応を行います。美容師としての技術と経験を活かし、リピーターの増加を目指します。」
ポイント
一人経営の場合は、マンツーマンでの対応や個別カウンセリングの強みをアピールします。
現在の借入状況
内容
現在の借入があれば、その状況や借入の目的を記載します。特に新たな資金調達を考えている場合は、既存の借入と合わせて返済計画も考慮する必要があります。
記入例
「現時点での借入はありません。開業資金のうち、自己資金を一部利用し、日本政策金融公庫からの融資を計画しています。」
必要資金と調達方法
内容
開業資金の内訳と、それぞれの費用がどのように調達されるかを示します。必要な資金を具体的な項目ごとに分けると、融資担当者に対しての説得力が高まります。
記入例
項目 | 金額 |
店舗改装費 | 600万円 |
シャンプー台設置 | 40万円 |
美容器具一式 | 100万円 |
広告宣伝費 | 20万円 |
自己資金 | 300万円 |
公庫からの借入 | 500万円予定 |
売上予測と収支計画
内容
事業の収支計画や売上予測を記載します。特に一人美容室の場合、営業時間や施術可能な人数に制限があるため、現実的な数値設定が求められます。また、リピーター率や平均単価など、具体的な数字を盛り込むと信頼性が高まります。
記入例
項目 | 月間予測 |
客数 | 100人(目標) |
客単価 | 7,000円 |
売上 | 700,000円 |
固定費 | 250,000円(家賃・光熱費・保険等) |
変動費 | 150,000円(材料費) |
月間利益 | 300,000円 |
ポイント
- 客単価や顧客数の設定は、過去の勤務経験を元に現実的な数値を用いると信憑性が高まります。
- 固定費や変動費も、可能な限り具体的な項目を列挙し、毎月の損益がどのように見込まれるかを明確に記載します。
- リピーター率の目標なども設定すると、経営の安定性を示すことができます。
リスクと対策
内容
一人美容室開業後に発生しうるリスクと、それに対する対策を記載します。一人美容室の経営では、自身の健康管理や集客、近隣の競合店舗への対応などが主なリスクとなります。
記入例
「主要リスクは以下の通りです。
- 顧客の獲得と維持:開業直後は集客が課題となるため、SNSや口コミサイトを活用し、初回割引や紹介特典を導入します。
- 健康リスク:一人での運営のため、自身が体調を崩した際の代替手段がありません。予防として、定期的に健康診断を受け、負担を軽減する施術技術を取り入れます。
- 競合店舗の出現:近隣に新たな美容室が開店した場合、既存の顧客に特典付きの施術を提供するなどのリピート対策を行います。」
ポイント
- 一人美容室ならではの経営リスクや対応策を具体的に記載し、経営の安定性をアピールします。
- 具体的な対策を示すことで、事業に対する計画性や準備が整っていることを強調できます。
日本政策金融公庫の創業融資に向けたポイント
一人美容室が創業融資を利用する場合、日本政策金融公庫が提供している融資制度が利用しやすい選択肢の一つです。以下は、日本政策金融公庫から創業融資を受けるためのポイントです。
信用力を高める自己資金の割合
日本政策金融公庫における創業融資審査では、自己資金の割合が重視されます。一般的に、創業資金の30%程度の自己資金があると望ましいとされます。
自己資金があると経営者としての計画性や安定性が評価されやすくなり、審査の通過率が向上します。
開業計画の具体性と実現可能性
創業計画書に記載する内容の具体性が重要です。日本政策金融公庫は、事業の実現可能性や創業計画の持続性を評価します。従って、売上見込みや経費計算が現実的かつ合理的であることが求められます。
地域の市場調査や類似店舗の動向などを基にした、説得力のある数値設定が好まれます。
信頼性を示す過去の実績と職歴
日本政策金融公庫の創業融資では、申請者の過去の職歴や経験が重視されます。美容師としての実績や顧客との信頼関係を示す具体例がある場合、それを記載すると審査が通りやすくなります。
過去の勤務先での役職や、リピーターの数などの実績があればそれも強調しましょう。
まとめ
一人美容室の創業計画書は、日本政策金融公庫などの機関から融資を得るためだけでなく、事業の方向性を明確にし、成功を目指すための指針ともなります。開業に向けた準備や戦略を具体的に示すことで、金融機関からの信頼を得るとともに、将来的な経営の安定も期待できます。
事業の強みをアピールし、顧客にとって魅力的な一人美容室となることを目指して、しっかりとした創業計画を立てましょう。