1人美容室を経営するにあたって必要な支出は大きく分けて「固定費」と「変動費」に分類されます。これらの費用を適切に管理することが、安定した経営につながります。
本記事では、美容室の経費を大きく「固定費」と「変動費」に分けた上で、特に大きな比率を占める「3大経費(家賃・仕入・返済)」を中心に解説していきます。
1. 3大経費とは?
美容室を運営する上で特に大きな負担となる経費が「家賃」「仕入」「返済」の3つです。これらは経営において重要な支出であり、適正な金額で設定することが成功の鍵となります。
1-1. 家賃
1人美容室の経営において、家賃は最も重要な固定費のひとつです。一般的に、家賃は売上の10%以内に収めるのが理想とされています。
例えば、月の売上が70万円であれば7万円、120万円であれば12万円が適正ラインです。逆に、家賃が30万円の物件に入る場合、300万円の売上が必要となるため、現実的に見合うか慎重に検討する必要があります。
また、家賃は固定費であり、後から削減することが難しいため、初期の物件選びが非常に重要です。駅近や広い物件は魅力的に映りますが、経営の安定を考えるとできるだけコストを抑えた物件を選ぶのが賢明です。
家賃が高い場所では収益が増えれば問題ありませんが、低い場所では集客力に工夫が必要です。
1-2. 仕入
仕入は売上の増減に応じて変動する経費であり、大きく「商品仕入」と「材料仕入」に分かれます。
- 商品仕入:店販商品の仕入れで、販売数に応じて変動します。
- 材料仕入:施術に必要なシャンプーや薬剤の費用で、技術売上の5%程度が目安です。
例えば、技術売上が50万円の場合、材料費は2万5千円程度が適正ラインとなります。
1-3. 返済
借入を行って開業した場合、毎月の返済額も考慮しなければなりません。
例えば、開業資金として800万円を借り入れ、10年間で返済すると、月の返済額は約8万円程度になります。返済が終了すればこの支出はなくなり、利益が増加することになります。
2.固定費について
固定費とは、売上に関わらず毎月発生する費用のことです。美容室の主な固定費には以下のようなものがあります。
2-1. 水道光熱費
美容室では、エアコン、ドライヤー、シャンプー台の使用による電気・水道・ガス代がかかります。特に夏場や冬場はエアコンの使用頻度が高くなり、光熱費が増加する傾向にあります。
- 電気代:エアコンやドライヤーの使用により、月額15,000円~25,000円になります。
- 水道代:シャンプー台の使用による水道代、月額5,000円~10,000円になります。
- ガス代:給湯設備がある場合、月額5,000円~8,000円になります。
合計で月25,000円~40,000円程度が目安となります。
2-2. 通信費
インターネット回線や電話の通信費も固定費として発生します。予約管理システムを導入する場合、通信環境の安定性も重要です。
- インターネット回線:6,000円~10,000円程度になります。
- 電話料金:固定電話や携帯電話の利用状況によって5,000円~8,000円程度になります。
2-3. その他の固定費
- 賃貸保証料:家賃の1ヶ月分を契約時に支払い、更新時にも発生することが多いです。
- 保険料:火災保険や賠償責任保険など、月額3,000円~5,000円になります。万が一の事故や災害に備え、美容室の保険に加入することをおすすめします。保険料は事業を守るための投資となります。
3.変動費について
変動費とは、売上や経営状況によって変動する費用のことです。主に以下のような費用が該当します。
3-1. 広告・販促費
開業当初は集客のための広告が必要となるため、多めに見積もる必要があります。
- ホットペッパー掲載:最低30,000円〜最大120,000円になります。
- チラシポスティング:15,000円〜40,000円になります。
- SNS広告(Instagram・Facebookなど):最低1,000円からになります。
3-2. 販促費
お客様へのサービス向上のための費用です。
- ドリンクサービス、雑誌、プレゼントなど:カット料金の2~5%程度(例:カット5,000円なら100円~250円)になります。
3-3. 雑費
店舗の修繕費、税金、保険料、その他予測不能な出費が含まれます。
- 雑費:15,000円~60,000円になります。
4.1人美容室の経費項目一覧
これまでの費用をまとめると、1人美容室の経費は以下のようになります。
項目 | 最低金額 | 最大金額 |
家賃 | 90,000円 | 130,000円 |
仕入 | 60,000円 | 120,000円 |
返済 | 70,000円 | 110,000円 |
水道光熱費 | 25,000円 | 40,000円 |
通信費 | 6,000円 | 10,000円 |
広告費 | 10,000円 | 120,000円 |
販促費 | 15,000円 | 30,000円 |
雑費 | 15,000円 | 60,000円 |
合計 | 291,000円 | 620,000円 |
この範囲内で経費を抑え、自身の生活費も加味した上で経営計画を立てましょう。
5. 1人美容室の経費計上における注意点
1人で美容室を経営していく場合、適切な経費の管理が特に重要になります。以下のポイントに注意しましょう。
- 個人用と事業用の経費を明確に分ける:事業専用の銀行口座やクレジットカードを用意し、プライベートとの区別を徹底しましょう。
- 税務処理を適切に行う:帳簿の記録をこまめに行い、税務調査への備えを怠らないようにします。
- 経費の証拠を残す:領収書や請求書はすべて保管し、電子帳簿保存法に対応した管理を行うのが理想です。
- 経費として計上できる項目を把握する:家賃、光熱費、通信費、広告費、仕入費など、税務上のルールを確認し、適正に経費処理を行いましょう。
- 節税対策を行う:青色申告特別控除や減価償却を活用し、節税の工夫が大切。
- 税理士に相談してみる:経費計上の方法や節税のアドバイスを受けるために、専門家の意見を取り入れるのも有効です。
- 定期的に経費を見直す:売上に応じて固定費や変動費を見直し、無駄な出費を削減することが大切です。
こうした注意点を踏まえて、経費管理および計上をしっかりと行いながら、上手にコストを抑えつつ、適切に節税していきましょう。
6. まとめ
1人美容室の経営は、自由度が高く、大きな収益を得る可能性も秘めています。しかし、経費管理を誤ると赤字経営に陥る可能性もあるため、特に「家賃」「仕入」「返済」の3大経費は慎重に設定しておく必要があります。
また、固定費はできる限り抑え、変動費も適切にコントロールすることで、より安定した経営が可能となります。特に広告費や販促費は、最初の数カ月間で適切な投資を行い、その後は効果を見極めながら調整することが重要です。
さらに、予期せぬトラブルや景気の変動にも対応できるよう、資金に余裕を持った経営を心掛けることが重要です。しっかりとした資金計画と経費管理を行い、長期的に安定したサロン経営を目指していきましょう。